夏のサッカーは、実力を出す前に「暑さ」との戦いになります。ESTADIOA S&Cでは2022年から毎年、熱中症・脱水対策のプリントを会員に配布してきました。今年も4月末から配り始めています。伝えたいことは一貫しています——熱中症は、計画して予防することがポイントです。いつから、どんな準備を、どのくらいやるのか。この記事では、その配布資料の考え方を、暑熱順化の生理学と水分補給の戦略に沿ってまとめました。コントロールできない外的要因もありますが、コントロールできることは、暑くなる前から準備しておきましょう。
なぜ「計画して予防する」ことがポイントなのか
熱中症対策というと、多くの人は「暑い日に水をこまめに飲む」ことをイメージします。もちろんそれも大切ですが、それは対策のごく一部です。本当に効くのは、暑くなってから慌てて対応することではなく、暑くなる前から身体を暑さに慣らし、当日の水分補給を戦略として組み立てておくことです。
ESTADIOA S&Cが会員に配っている対策プリントで最初に伝えているのも、この「計画」の考え方です。いつから準備を始めるのか、どんな内容を、どのくらいの量・強度でやるのか——ここを事前に決めておくかどうかで、真夏のパフォーマンスとコンディションは大きく変わります。熱中症は、適切に準備すれば防げる範囲が大きいものです。だからこそ、行き当たりばったりではなく計画で臨む価値があります。
暑熱順化とは何か——「いつから」始めるべきか
暑熱順化(しょねつじゅんか)とは、身体を段階的に暑さに慣らしていくプロセスのことです。人間の身体は、暑い環境で繰り返し運動することで、汗をかき始めるタイミングが早くなり、汗の量が増え、汗に含まれる塩分(ナトリウム)の濃度が下がっていきます。つまり、より効率よく身体を冷やし、かつ電解質を無駄に失わない身体へと変わっていきます。
この適応には時間がかかります。一般的なスポーツ科学の知見では、暑熱順化にはおおむね1〜2週間の継続的な暑熱下の運動が必要とされ、真夏本番に間に合わせるには、その手前から始めておく必要があります。ESTADIOA S&Cが「今のうちから暑熱順化」と繰り返し伝え、資料を4月末から配り始めているのはこのためです。暑さがピークに達してから慣らし始めるのでは、身体の準備が追いつきません。
「どんな・どのくらい」——暑熱順化を進めるときの目安
暑熱順化は、いきなり真夏日の全力プレーで始めるものではありません。まだ気温が上がりきらない時期から、軽めの強度で暑さのある環境に身体を置く時間を少しずつ増やしていくのが基本です。身体が適応してきたら、運動の強度と時間を段階的に引き上げていきます。
- 時期:真夏の前、気温が上がり始める頃から始める(慣らしには継続的な期間が必要なため前倒しで)
- 強度:最初は軽め。身体が慣れてきたら段階的に上げる(初日から全力は避ける)
- 時間:短い運動時間から始め、暑熱下で過ごす時間を少しずつ延ばす
- 体調:睡眠不足・体調不良・前日の飲酒がある日は無理をせず、計画をずらす
重要なのは、順化の途中であっても「今日は無理をしない」という判断を優先することです。暑熱順化はあくまで安全にパフォーマンスを保つための準備であり、体調を崩してまで進めるものではありません。前日の睡眠や体調、当日のコンディションを見ながら、計画そのものを柔軟に調整してください。
90分以上の運動には「水分補給の戦略」が必要
ESTADIOA S&Cの対策プリントで特に強調しているのが、90分以上の運動では水分補給に戦略が必要だという点です。サッカーの試合は前後半で90分。加えてアップやハーフタイム、延長を含めれば、身体は長時間にわたって発汗し続けます。この時間帯の補給を「喉が渇いたら飲む」だけに任せるのは、戦略とは言えません。
運動時間が長くなると、失うのは水分だけではありません。汗とともにナトリウムをはじめとする電解質も失われます。長時間の運動で水分だけを大量に補給すると、体内の電解質バランスが崩れることもあり、90分を超えるような長い運動では、水分と電解質の両方を計画的に補うという発想が欠かせません。
運動前・運動中・運動後の3局面で考える
水分補給は「運動中」だけの話ではありません。運動を始める前の段階で身体を十分に水分で満たしておくこと、運動中はまとめてではなくこまめに分けて補給すること、そして運動後に失った水分と電解質を計画的に戻すこと——この3局面をひとつの戦略として設計します。特に運動前の状態が脱水気味だと、その日のパフォーマンスもコンディションも最初から不利になります。
「喉の渇き」だけを合図にしない
喉の渇きを感じた時点で、身体はすでにある程度の水分を失っています。だからこそ、渇きを感じてから飲むのではなく、あらかじめ「いつ・どのくらい飲むか」を決めておくことが戦略になります。給水のタイミングを試合や練習のスケジュールに組み込んでおけば、渇きに気づく前に補給を進められます。
ESTADIOA S&Cの「対策プリント」という取り組み
ESTADIOA S&Cでは2022年から、この熱中症・脱水対策の内容をプリントにまとめ、会員に配布しています。あれから夏の暑さはさらに厳しくなり、対策の重要性は年々増しています。だからこそ、内容を更新しながら今年も4月末から配り続けています。まだ受け取っていない会員の方は、次回セッション時にお声がけください。
口頭で「水を飲んでね」と伝えるだけでなく、いつから・どんな準備を・どのくらいやるのかを紙にまとめて手渡すのには理由があります。熱中症・脱水対策は、当日の一回きりの行動ではなく、シーズンを通した計画だからです。手元に残る形で渡すことで、選手自身が自分のコンディションを計画的に管理できるようになります。コントロールできない天候もありますが、コントロールできる準備は、事前にやりきる——これがESTADIOA S&Cの姿勢です。
まとめ
熱中症・脱水は、計画して予防することがポイントです。暑くなる前から暑熱順化を始め、90分以上の運動には水分と電解質の補給戦略を用意しておく——この2つが、夏のサッカーでコンディションを守る土台になります。ESTADIOA S&Cでは、こうした対策を毎年プリントにまとめて会員に配布し、一人ひとりのコンディション管理をサポートしています。横浜・綱島のサッカー専門S&Cジムで、暑い季節も実力を出しきれる身体づくりを、計画から一緒に組み立てていきましょう。
AUTHOR
この記事を書いた人

YOSHIKO
代表 / S&C COACH
日本では数少ないS&Cコーチの一人。運動指導歴20年、NSCA-CSCS・NASM-PES・JFA公認ライセンスを保有し、 スペイン・ラ・リーガ1部やJリーグの選手まで指導してきました。 「性別ではなく、プログラムの質で選んでほしい」を信条に、サッカー選手のフィジカルを変えるトレーニングを提供します。


